外科医10年目からの海外臨床留学

グータラなのに志だけは高い小児外科医の海外臨床留学の記録です。主に気合いと乗りと運で今まで生きてきてます。臨床留学先としてのオーストラリアの紹介。英語の勉強法や影響を受けた本などの紹介もしていく予定です。好きな言葉は「大器晩成」。2児の父です。emailはtkghiramatsu@gmail.comです。

海外臨床留学最初の3ヶ月 憂鬱じゃなければ仕事じゃない!

臨床フェロー1年目を振り返る

小児外科臨床フェローとしての2年目も、すでに5ヶ月がたちました。

最近の2ヶ月間は、とにかくCOVID-19の影響により、職場環境もだいぶ特殊な状況が続きましたが、2週間前からようやく待機手術も8割がた復活し、業務も通常の4チーム制に戻りました。

 

元の形で再び働き始めて最近感じたことは、自分がだいぶこの環境に慣れてきた、ということ。日々の判断やConsultantとのコミュニケーションも、あまりストレスなくできるようになってきたな、と、やっと思えるようになってきたようです。

 

思い返せば、昨年の1月からオーストラリアで臨床フェローを開始して最初の3ヶ月ほどは、とにかく慣れないことだらけで、本当に大変だった気がします。

 

今振り返って、最初の頃大変だった(一部現在進行形)ことは

 1. もちろん英語でのコミュニケーション、特に電話

 2. 一番辛かったのは電話でConsultantに急患の相談をする時

    3. そして朝の申し送り

 4. 意外と辛かった(今でも)のは、逆に医療以外の雑談

 

まあ突き詰めれば全てコミュニケーションなんですけどね。

 

コミュニケーション以外では、まあ同じ疾患でも日本とアプローチの方法が違ったり、血液検査や画像検査のハードルが高かったり、といった、日本とオーストラリアでの医療自体の違いにも結構苦戦した気がします。あと日本で馴染みのない疾患、例えばPilonidal sinusとか、あとCystic fibromaとか、あと重症のやけども日本ではほとんど見てなかったので、それなりに苦戦しました。

 

とにかく、何いってるかわかんないし、患者の相談しているうちにボスがイライラし始めてるのがわかるし、たまにわけわからない疾患あるし。てな具合で最初の数ヶ月は、病院に向かう朝の電車の中でいつも憂鬱になっていました。

 

そのころは、幻冬舎の見城徹さんの「憂鬱でなければ仕事ではない」というフレーズを自分に言い聞かせ、「この憂鬱な毎日こそ、自分を成長させてくれている、これこそ自分の求めていた環境だ」と、呪文のように唱えて日々過ごしていたのを今でも鮮明に覚えています。

 

朝の申し送りでの試練

 

最初の頃の苦悩の一つが毎朝の申し送り。

 

僕が働いているCHWの小児外科では、朝7時から申し送りがあり、その後各チームごとに病棟回診という感じです。

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朝の申し送り風景。この日はたまたまのんびりした感じでドーナツ食べながら。忙しい時はもっとピリピリしてる時もあります。

朝の申し送りでは、当直帯の新規入院や、入院患者のアップデートがあればそういった情報も、各チームへ。基本的に、前日の当直のConsultantが属するチームに新規入院が全て入るので、 自分のチームのConsultantがオンコールだった日の翌日は新規入院の処理で忙しい。今までに最多は平日の一晩で18人の入院

 

そう、Traineeは基本、Consultantに使えるしもべなので、その日の忙しさも、Consultantの仕事内容によって決まります。今のチームでは、一人のボスが毎週月曜日に午前午後のオペ枠を持っているので、週末にうちのチームのボスがオンコールの時は、その明けの月曜日がかなり忙しい!

 

で、今でこそ申し送りで必要な情報を入手して、確認すべき事項もその場で確認して、その後の回診がよりスムーズに行くようコミュニケーションを取れるようになってきましたが、最初の数ヶ月はかなり辛かったです。

 

写真にもあるように、みんなが持っている入院患者一覧に、新規入院患者の情報を書き込んでいくのですが、はっきり言って最初のうちは英語についていけないので大変でした。どうやって対処していたかというと、単純に、朝早く来て先にカルテ読んでおいて、カルテから分からなかったところや確認すべき事項に焦点を絞って申し送りを聞くようにしていました。去年の途中からは、外部からでも電子カルテにアクセスできるようになったので、行きの電車で電子カルテを開いで情報収集するのが日課でした。

 

当然、自分が当直明けの時は、前の日に入院した患者さんについて簡潔に、そして必要十分な申し送りをしないといけないので、これは最初の頃は当直中に紙に書いていうことをまとめたりしながらやっていました。

 

英語での症例提示

申し送りにしても、ボスへの相談にしても、どれだけ簡潔に、そして必要十分に患者の情報を伝えるか、ということで、これに関しては、おそらく日本語と英語の文章構造の違いという根本的な問題が苦戦の原因だった気がします。

 

ま、簡単にいってしまえば、英語ではとにかくゴールを先に相手に提示してあげるのが大事です。つまり結論から。

 

例えば、

日本語だと、

「○○才、男性、主訴は、、、、。身体所見は、、、検査所見、、、

で最後に、以上から、(例えば)急性虫垂炎が、最も疑われます。」

 

という流れになるかと思いますが、英語だと、

 

特にボスに報告する際は、

「〇〇才男性、急性虫垂炎が疑われるので手術を手配したいのですが」

から始まり、そこでボスが「ふむふむ」となってから、

「経過は、、、身体所見、、、検査所見、、、」と話していくと、

ボスの頭の中では、「最初にこいつがいった結論と、その後の説明に矛盾がないかな」といった視点から会話が進んでいくことになり、こちらのプレゼンに説得力があれば、

「Ok, fine, book it (わかったよん、好きにしな)」とか、

もしイマイチ説得力にかければ、

「How about this?」とか、「WHy don't you do this first? 」とか、アドバイス(時にいちゃもん)をつけてきます。「mmm, I'm not convinced..」(本当に?アッペはないんじゃないの?)的なこと言われちゃったりすることもあります。

 

とにかく、英語では、「最初に結論を言う、それから詳細」と言う文章の構造を徹底することがキモだと思います。

 

最初の頃は、とにかく文章構造が日本語的になりがちで、ボスから途中で「で、何が言いたいの?お前は何がしたいの?」みたいな感じでイライラされることもありました。

頭の中で日本語で考えて英語に訳していたからなのでしょう。

 

以上が英語圏の病院で1年半働いてなんとか身につけつつある、英語のプレゼンtipsでした。

 

余談ですが、Acredited traineeたちは、さすがエリート集団だけあって、朝の申し送りにしてもボスへのプレゼンにしても、本当に上手で、わかりやすいです。

本当にプレゼンが上手い人の申し送りは、たまにApple watchでこっそりレコーディングして後で聞いたりもしてます。

 

ちなみに、彼らはプレゼンの中で曖昧な部分とか、自分の自信がない部分をうまく言い繕うのも絶妙にうまいです。

 

 

日常会話が一番苦戦! オペの最後の10分間に汗びっしょり

 

最後に、意外と苦戦するのが医療以外の話題の雑談です。はっきりいって、医療関係の会話は、つまるところパターン認識なので、医療の内容自体が分かっていれば、あとは慣れれば大丈夫になってきます。

 

しかし、日常会話にはパターン的なものがなく、またslung的な言い回しも増えるので、途端に置いてかれます。これは今でも毎日のようにありますけどね。

 

特に最初の頃困ったのが、オペ中。

オペの最中は「はいこれ引っ張って」とか、「はい、ここ切って」といったような会話で十分成り立つのですが、手術の終盤にクライマックスが過ぎて傷を綴じ始める頃には、みんなリラックスし始め雑談を始めるのです。

 

最悪なのが、ボスと麻酔科が雑談を初めて、ついていけないので縫合に専念していると、いきなり「Tomoはどう思う?」とかいって意見求められたりするやつ。

まじで、苦笑いで乗り切る(いや乗り切れてないんだろうけど)しかない感じで本当汗びっしょり。

 

まあ振り返ってみると、今はまだだいぶマシになってきたのかな。

 

日常会話でもネイティブ同士の会話にちゃんとついていける日は来るのだろうか。

うーん。