外科医10年目からの海外臨床留学

グータラなのに志だけは高い小児外科医の海外臨床留学の記録です。主に気合いと乗りと運で今まで生きてきてます。臨床留学先としてのオーストラリアの紹介。英語の勉強法や影響を受けた本などの紹介もしていく予定です。好きな言葉は「大器晩成」。2児の父です。emailはtkghiramatsu@gmail.comです。

医者のヒエラルキー in オーストラリア 〜 「Surgeon」と呼ばれるためには

オーストラリアにおける"一人前"の医師とは

 

今日は、オーストラリアで一人前の医師になるまでのプロセスについて書いてみます。

 

オーストラリアにおいて「一人前」の医師、とはイコール「Consultant」です。

 

簡潔にいうと、オーストラリアでの医師の区別は、

 

「Consultant (神)と、それ以外」

 

です。

 

まあ一応「その他大勢」のtraineeも細かく分けると、「神」に近い順から、Fellow, Registrar (acredited, unacredeted), Resident (SRMO, RMO), Intern、という感じになってます。

 

Consultantとは、各専門分野のトレーニングを経て、Fellowship examという専門医試験のようなものに合格した上で、Consultantとして病院と契約を結んでいる人々のことです。「専門医」や「指導医」といった日本語になるのかと思いますが、日本のそれとはだいぶ違う気がします。

 

オーストラリアではConsultantとなればそれは「一人前」ということで、独立したpracticeを行えます。しかし、Consultant以下(Fellow, Registrar, Resident, Intern)、つまり「半人前」は、全ての医療行為をConsultant の名の元に行います。

 

もちろん現実的には、各々が判断して診断し医療行為を施すのですが、「半人前」が行う全ての医療行為は「一人前」の監督下に行われます。実際、レントゲンや採血のオーダーひとつするのにも、Consultantの名前を記載する必要があるのです。

 

 

日本ではどうでしょう。平成16年度から始まった初期臨床研修制度以降、この初期臨床研修を終えないと、その後臨床医としてステップアップすることは不可能です。でも、3年目以降は、各分野ごとに「専門医制度」はあるものの、多くは学会単位での認定で、法的な制限が変わるわけではありません。というか、卒後20年目で、誰からも信頼される外科医だけど、専門医は持っていない、という先生もいたような気がします。

 

何れにしても、日本では、若手医師が採血オーダーを入れるのに上司の名前は不要です。

 

「I am a Surgeon」の意味

 

前述したように、オーストラリアでは、「一人前の医者」となるためには各分野のFellowship examをクリアすることが必須です。fellowship examをクリアして、さらにconsultantとしてのポジションをゲットして初めて「一人前」として認められます。

 

 そして(前後の文脈にもよりますが)、オーストラリアで「Surgeon」といったら「一人前」の外科医、を意味します。なので、僕らtraineeは「Surgeon」ではないのです。

 

 

働き始めの頃はこの辺のことをよくわかっていなかったので、よく混乱していました。

 

例えば、who is the surgeon today?と聞かれ、「me」と答えたら、は?みたいな雰囲気になったのを鮮明に覚えています。会話の文脈により、traineeのことも「Surgeon」と表現することもなくはないですが、基本的にオーストラリアで「Surgeon」と言ったら「一人前の外科医」つまりconsultant,最低でもfellowのことを指します。

 

 

Acredited と unacreditedと IMGs (provisional fellow)と Fellow

究極のところ、オーストラリアの若手医師は、みんなConsultantになるために下済みをするわけですが、Traineeにもヒエラルキーがあります。

 

今いる職場で働くTraineeは、Acredited registrar 3人、Unacredited registrar 3人、IMGs (International medical graduates; provisional fellow) が僕を含めて2人。それと普段はリサーチしててで、オンコールだけやってくれているResearch fellwow 1人。それとSRMO、いわゆるResidentが6人という体制です。

 

Residentは、研修医上がりのPGY-3から5くらいの学年がほとんどで、多くはここで小児外科の経験を積んで、また小児外科Consultantとのコネを作って、Registrarを経て小児外科医 (Consultant) になろうと考えている人たちです。まあ縫合や糸結びもままならないくらいの若手たちです。

 

Registrarについては、長くなるので最後に書きます。

 

IMGsは、僕ももう一人のTarun(インドから1年だけTransplantを学びに来ている)も、オーストラリアでConsultantになろうとは思ってはいません。僕らはこの病院では「 Provisional fellow(Fellow見習い)」という役職になってます

 

ちなみにオーストラリアで「Fellow」といったら、各分野のFellowship examはパスしているが、まだConsultantのポストがない、あるいは、より専門性の高いsubspecialityの勉強のためトレーニングしている立場を指します。

 

つまり「Felllow」とは言うなれば、日本の18,19歳の若者と考えるとわかりやすいかもしれません。つまり、もうほぼ大人。親もよほどのことがない限り干渉しないし、自分で善悪の分別もつく。でも、法律的には「子供」で、保護者の監督下にある。といった感じです。

 

僕やTarunのように、海外でトレーニングを終えた場合は、fellowに相当するけど、正規の国内Fellowとは違う、という意味でProvisionalなのです。

 

さて、Registrarですが、自分の専門分野を定め、一人前になるべくトレーニングを積む立場、という意味で日本で言うところの後期レジデントになると思います。

Acredited(正規)とunacredited(非正規)という2種類のRegistrarが存在します。

 

何が正規かというと、外科系の場合、RACS (Royal Australian College of Surgeon)という、日本で言う学会のような組織が定めた正規のトレーニングプログラム(SET; Surgical education  and training)のtraineeかどうかと言うところの違いです。

 

SET programに定められたトレーニング要綱を全て満たして(最低7年間、必要症例数や、定期的な課題提出、実習のようなものを全てクリアする必要あり)、初めてFellwoship examを受ける資格を得ることができます。もちろん職場の上司からの定期的な評価もあるようです。

 

病院側は、acreditedに十分な経験を積ませて一人前に育てる責任があります。

なので、当然のようにunacreditedに比べてacreditedの方が優先的にメジャー症例を経験できるような暗黙の了解があるようです。

 

まあunacreditedも、将来晴れてacreditedになれば今度は自分が症例を独り占めできるので、今はしょうがない、と受け入れているような雰囲気です。

 

まとめ

まあtraineeにも色々な立場が存在しますが、みんなで仲良くやっています。

別にacreditedとunacreditedで気まずい関係、とかそういったこともないので、まあこれはこれでうまく成り立ってるのかな、という気はしています。

 

そして、正規のTrainee一人一人の経験症例数は日本に比べると桁違いに多いです。

これは人数を制限することにより症例数を確保しているからで、希望すればTraineeになれる日本とは対照的です。

 

しかし、正規のTraineeになるまでがかなり過酷なので、それはそれで色々な問題があるようです。

 

その辺りについては次回書こうと思います。