異常に狭いSET programの門
前回はConsultantになるまでの道のりと、そこに至るまでのtraineeのヒエラルキーについて書きましたが、今回はこのTraining program (SET: Surgical education and training)についてもう少し書いてみます。
小児外科のSET programは7年間なのですが、なんとオーストラリア全土で、全ての学年合わせて30から35人しかprogramには入れないのです。
7学年で35人だとすると、みんなが順当にFellwoship examに受かっていけば、毎年5人ずつ新規traineeが誕生することになります。
裏を返せば、毎年5人しか小児外科の正規レーニングを開始できない、と言うことです。
自分が希望さえすれば、好きな科でトレーニングを開始できる日本と比べると大きな違いです。
熾烈な競争を勝ち抜いて初めてトレーニングを開始できるのですが、当然大多数の人は篩にかけられてしまうのです。
そう、その篩にかけられてしまった人たちの受け皿が、unacredited regisrtrarという
枠なのです。
unacredited regisrtrarは、事実上小児外科のトレーニングを積んで経験やコネを蓄えながら、いずれSET traineeになる準備をしているのです。もちろんunacreditedを何年やっても、fellowship examを受けるための必要年数である7年間にはカウントされませんが。
このシステムで近年問題になっているのが、SET traineeへの門が狭すぎる、ということです。
前述したように、計算上は毎年5人ずつ新規のacredited traineeが誕生するはずなのですが、実際には過去2年間でなんと
2人、
しか小児外科のAcreditedが募集されていないのです。
なぜなら、みんながみんな7年間でprogramを卒業しない(できない)からなのです。
SET programは、入るのが非常に難しい反面、いったん入ってしまえば、fellwoship examを受けるまでそのポジションは保障されます。そのため、何が起こるかというと、
女医さんたちは、晴れてSET programに入った後に出産する傾向にあり、産休育休を取りながらprogramのカリキュラムをこなしていくのです。今いる同僚の一人も、Acreditedになってから2人子供を産んでいて、programに入ってからもう8年経っています。彼女の場合、卒業まで最短でも後1年かかるので、9年間在籍、ということになります。
それともう一つ、卒業試験であるFellowship examが非常に難しい。ということ。噂によると1発合格の可能性は20%とのこと。中には3、4回落ちてようやく5回目で合格、という人もいたようです。
1回落ちると半年ほど待たなければならないので、当然そないだ新たな募集はでないのです。
合計人数が決まっているため、上記のように卒業に時間がかかる人が多くいると、新たな募集がなかなかでないということになります。
悲しい現実
このような状況から、小児外科に興味はあったけど、最初から諦めて違う道を選ぶ人、や、Acreditedを目指して何年かunacreditedで頑張ったけど、モチベーションが続かず違う道に行く人、などが多くいることは想像に難くありません。
数日前にも、今一緒に働いているunacrediuted2年目の女医さんが、小児外科医になるのを諦めて違う道を探し始めている、という話をしていて、いたたまれない思いです。
彼女は、学生の頃から小児外科に憧れ、小児外科のResidentを2年やって、やっと去年unacredited registrarになったのですが、この忙しい小児病院ですでに3年間働いているので、知識や経験もかなり豊富です。
それなのに、夢を諦めようとしている彼女を見ると、このシステムはほんとにこれでいいのか?と考えてしまいます。
その反面、競争を勝ち抜いたAcreditedたちが半端ない症例を経験して立派なConsultantになっていくのを見ると、トレーニングの質を保つために人数を制限するというのもある意味理にかなっていて、なんとも複雑な気持ちになります。
直近の問題
最近気付いた、このシステムの問題点として、年々小児外科志望者が減ってきている(かもしれない)ということです。Acredited traineeになるための門が狭すぎるので、
最初から諦めてしまいう人が年々増えているという話をここ最近耳にするようになりました。
以前紹介したように、現状の小児病院は、実際に普段の業務をこなすために必要な若手の数を10とすると、3から4くらいがAcredited traineeで、たりない戦力をunacredited traineeとIMGsで補っているのが現状です。
IMGsは置いておいても、Unacreditedは、「この下積みの先にacredited positionがある」というニンジンのために一生懸命働いています。
それが、「一生懸命は働いても、Acreditedになれる可能性はかなり低い」ということになれば、「なら諦めて、早めに他の専門分野に切り替えよう」と考える若手が増えるのも自然な流れでしょう。
直近の問題は、このように、小児外科を目指す若手医師がそもそも減っていってしまうと、現状の業務を賄うだけの人員が確保できず、通常業務にも大きな影響が出てしまう、ということです。
ま、少なくとも今のままの小児外科トレーニングシステムはsustainabilityの点で問題あり、というのが僕の感想です。ま、僕があれこれ考えてもしょうがないんだけどね。
Traineeから見た、「狭き門」に対する対策
これだけ狭き門なので、「諦める」という人が多くいることは前述した通りだが、「小児外科医になる道を残しつつ、他の道を選ぶ」という選択をするものもいます。
写真に写っているAnaは、去年unacredited registrarとして一緒に1年間働いていたけど、今年はGeneral Surgeryのunacreditedをやっていて、来年General surgeryのAcredited traineeになれるよう研究とかもやっている。彼女はなかなかの苦労人で、去年一緒に働く前にもシドニーのもう一つの小児病院の小児外科でunacreditedをやっていて、さらにその前の年には形成外科のunacreditedをやっていたらしい。
彼女は本当に優秀で仕事もできる。でもなかなかSET traineeになれない。
そんな中で、小児外科医の道は諦めてないけど、General surgeryへの道も模索中。
General surgeryは、小児外科ほどは門が狭くなく(なぜなら需要(ポジション)が圧倒的に多いから)、また正規のトレーニング期間も4年間と短いので、「Surgeon」になるには小児外科よりはハードルが低い。(とはいってもそれなりの競争率のようですが)
Anaのように、小児外科を目指してはいるのだけれど、とりあえず General surgeryのSET traineeを目指す人は珍しくはない。
これにはいくつかの利点があり、
①4年間終えればとりあえず「一人前」になれる。
②4年後にもやはり小児外科を目指したい気持ちがあれば、それから小児外科トレーニングを始めることもできるし、その時にはGeneral surgeryを終えていることは選考の上でかなり有利になる。
③小児外科のSET training7年間の間に義務付けられている「2年間のGeneral Surgery」は免除される。
以上の点から、小児外科の中でunacreditedを続けてSET positionを狙うよりも、実は近道かもしれない可能性があるのだ。
しかも、 大人の手術を多く経験してから小児外科のトレーニングを積むのは、僕自身の経験から言っても、かなりオススメです。
まとめ
というわけで、少数精鋭のtraineeを徹底的に鍛え上げて、「一人前」の小児外科医を育てる、というオーストラリアの教育システムは、利点もあるけど欠点もあり、しかもその欠点により、小児外科、やそのtraining position自体の魅力が脅かされかねない、と言った感じです。
そして、SET programにはなかなか入れない若手医師は、いろいろ彷徨いながら悪戦苦闘している。というわけでした。
ちなみに、写真の真ん中に写っているJanaは去年residentで、今年は晴れてunacreditedになり、今も一緒に働いています。彼は今後無事にacreditedになれるのだろうか。
乞うご期待。