外科医10年目からの海外臨床留学

グータラなのに志だけは高い小児外科医の海外臨床留学の記録です。主に気合いと乗りと運で今まで生きてきてます。臨床留学先としてのオーストラリアの紹介。英語の勉強法や影響を受けた本などの紹介もしていく予定です。好きな言葉は「大器晩成」。2児の父です。emailはtkghiramatsu@gmail.comです。

シドニー小児病院でのコロナシフト 

Children's Hospital at Westmeadのコロナ対策

オーストラリアは、幸いヨーロッパのいくつかの国やアメリカのような医療崩壊も起きず、また日本のように行政が右往左往(?)することなく、数週間前から規制が段階的に緩和されています。今週末からは室内プールとジムもオープン!これで肥満な日々にも希望の光が!

 

職場であるChildren's Hospital at Westmeadは、2ヶ月近く緊急手術(appendicitisなどの急性腹症、acute scrotumが大半、あとはいくつかの新生児外科疾患 )および準緊急(baby hernia, malignancy、biliary atresia, など)のみに限定していた手術制限を、平常時の80%のキャパシティまで戻して待機手術を再開します。

 

病棟業務的には、2週間前から従来の4チーム制に戻っていましたが、待機手術が再開されるので来週からはぐっと忙しくなることでしょう。

 

ということで今回は、ここ3ヶ月ほどのコロナシフトについて振り返ってみたいと思います。

 

まずはその前に、通常時の体制をご紹介。

 

シドニー小児- CHWの小児外科

僕の職場は、Children's Hospital at Westmead (CHW)のDepartment of General Surgeryという部署。医者は、Consaltantが12−3人(多い!)、僕を含むFellow/ Registrar が10人(Research fellow1人含む。彼は通常夜勤や緊急時のヘルプのみ臨床に関わる)、あとResidentが6人という布陣。(このFellow,registrar,residentの違いについてはまた違う機会に紹介します。)。通常時は、consultant3、4人にregistrar2、3人とresident1人で1チームを形成し、4チームで待機手術、病棟患者管理を行っています。部署内には外来や手術予約などを行う秘書さんが7人とリサーチナースが1人がいて、日々の大量な業務をこなして僕らの業務をかなりサポートしてくれています。

 

医者の責任と業務は簡単にいうと、Fellow/registrar (今後は便宜上「registrar」と表現します) は、Consultantの名の下に日々の診療業務を行い、residentはfellow/registrarの指示のもと診療業務を行う、という感じです。

 

より簡単にいうなら、Consaltantは神で、それ以外はしもべ、なのです。

 

Registrarがどの程度まで独自で判断するか、については、基本的にconsultantとの信頼関係のもとで臨機応変に、という感じです。

 

 

この「consultantとregistrarの信頼関係」というのが、特に1年目の最初の3ヶ月くらいの間僕が非常に苦戦した部分なのですが、それもまた違う機会に書きたいと思います。

 

CHW外科のコロナシフト

 

3月末から、オーストラリア全体で待機(非緊急)手術停止。また外来受診もなるべく減らすよう指示が出ました。

 

それに伴い、前述した通り、緊急(当日〜2、3日以内に手術が必要)および準緊急(1週間から1ヶ月以内に手術が必要)なケースだけに絞って手術が行われる体制になりました。 それでも毎日4、5件はありましたが。

 

外来も、緊急性のないものはキャンセル、延期。電話で済むものは電話対応またはテレビ電話。どうしても身体診察が必要であまり待てないケースだけ外来受診。という体制。

 

ざっくりいうと、診療規模は通常時の1/3程度に制限されることとなったわけです。

 

で、僕らしもべ達は、1/3になった業務を全員でやっても仕方がない、ということと、誰かがコロナに感染して、周囲の接触者が全滅するリスクを避ける、という意味合いで、半分が現地勤務、半分はリモート(自宅)勤務、という体制になりました。

 

実際には、2チームに分かれて、2週間ごとに現地勤務と自宅勤務、という具合でした。現地チームはさらに2チームに分かれ、「病棟患者対応チーム」と「急患(オンコール)対応チーム」がそれぞれ極力接触を避けて病棟と急患室・オペ室で勤務することになりました。 この2チームはオフィスでの居場所も別々に指定され、チーム間の申し送りもZoomで行われ、接触回避が徹底されました。

 

「病棟患者対応チーム」と「急患(オンコール)対応チーム」という最小単位に、senior registrar/junior registrar/resident が均等に配置され、2週間ごとに働く、というのを結局2サイクル半に渡り行いました。

 

ちなみに自宅チームは、給料をもらうために「勤務」しなければならないので、paperworkと電話外来、あと勉強会の準備が主な仕事でした。まあもちろん子供達が家にいて、仕事にならない日もありましたが、、。

 

オーストラリアのコロナ対策

今回のコロナ禍をオーストラリアで働きながら感じたこととしては、

 

・政府の対応が早い

・とりあえず動きながら考える、的な感じで緊迫感あり

・首相や州知事が大事なメッセージをしっかり伝えるのが上手

・日々アップデートされる行政の方針に反応して、各自治体や病院の対応も迅速

 

といったところです。

 

とにかく、3月中旬くらいから、近いうちに上記のようなコロナシフトに移行する必要がある、ということを部長がみんなに伝え出して、院長や行政側と調整しながら一気に大胆な変化をもたらす、という一連の流れがとても鮮やかに見えました。

 

そんなオーストラリアの動きを肌で日々感じながら日本のニュースを見ていると、意思決定のプロセスが本当に曖昧で、日本は「エビデンスに基づいた政治判断」ができない国なんだなと改めて思いました。

 

ということで、オーストラリアは今、徐々に通常の生活に戻りつつあります。

まあこちらは夏から秋にかけての時期だったことや、地理的に孤立していることなどが感染拡大防止に一役買っていたこととは思いますが、僕は個人的にはオーストラリア政府の対応は(federal,state共に)見事だなあと感じた今日この頃でした。

 

スコットモリソン首相の記者会見を見てて、彼のこと尊敬するようにもなりました。

まあ比較対象が我が国の某首相なので過大評価気味ではありますが。

 

オーストラリアの医療行政における意思決定については、シドニー大学公衆衛生大学院時代に学んだこと、感じたことなどと織り交ぜてまたの機会に記したいと思います。

 

ということで、明日は週末の回診当番なので、そろそろ寝ます。

 

f:id:nomadsurgeon:20200613224412j:plain

これは完成間近の新しい施設。成人病院と小児病院の間にあり、完成後は小児、成人それぞれの救命救急センターと、日帰り手術専用の手術室ができる予定。実はこの建設工事、今回のコロナ禍に人員を増やして完成を2ヶ月ほど早めて急ピッチで建設が進められました。コロナのオーバーシュートが起きた時に、新手術室をICUとして使う、という事態を想定し、政府がここに追加予算を出したようです。