外科医10年目からの海外臨床留学

グータラなのに志だけは高い小児外科医の海外臨床留学の記録です。主に気合いと乗りと運で今まで生きてきてます。臨床留学先としてのオーストラリアの紹介。英語の勉強法や影響を受けた本などの紹介もしていく予定です。好きな言葉は「大器晩成」。2児の父です。emailはtkghiramatsu@gmail.comです。

オーストラリアで医師として働く方法② 各論1~ 短期(最大3,4年)だけ、つまり臨床留学、その後は日本に帰る予定の場合

短期の臨床留学に必要な条件とは

 

Short term training pathwayでの臨床留学

前回は、総論的なお話だったので、今回は各論、ということで、Short term training pathwayについて少し詳しく書きます。

 

前回のおさらいですが、このPathwayは、

 

日本で専門医を取っていて(専門分野のトレーニングを終えている)、オーストラリアへの短期間の臨床留学を考えている人

 

が対象になります。

 

最初にお断りを入れさせてもらいますが、最終的にはご本人でAHPRAウェブサイトを確かめていただくことを強く勧めします。

 

前触れなくルールが変わることがあるのと、ほんとに細かいところや、マニアックな例外などは今回の説明では省いていますので。

 

3つの機関

まずは基礎知識として、以下の組織が別々に存在していることをなんとなくだけ知っておいてください。これ、僕は最初の頃チンプンカンプンで、理解するのに苦労しました。

 

1. AHPRA

   医師に限らず、医療関係者(看護師、歯科医、理学療法士など)のregistrationを統括している組織 

 

2. AMC (Australian Medical Council)

  医師のregistration, 病院のregulationなどを行う組織. AHPRAはhealth practitioner全般を横断的に管轄しているのに対して、AMCは医師と病院の管理。

 

3. college

   これは日本で言うところの学会にあたるのですが、もうちょっと実際のregistrationに対して影響力を持っているかもしれません。なんでもRoyal。そう、オーストラリアの国家元首は今でもエリザベス女王なのです。

 外科系は RACS (Royal Australian College of Surgeons),

 GPはRACGP、てな具合に、各専門分野別に「College」があります。

 (オーストラリアの国家元首はイギリスのエリザベス女王なので、とりあえず何かと「Royal」がつきます。)

 オーストラリアで独立した医師として医療行為を行うためには、「fellow」(またはsenior medical officer)になる必要があり、この「fellow」になるために、各専門分野担当のcollegeが設定するトレーニングを修了し、最後にfellowship examに合格する必要があります。例えば、「外科学会」に相当するRoyal Australian College of Surgeonsの定める正式な(accredited)トレーニングを終え、フェローシップ試験に合格すると、晴れて[FRACS(Fellow of Royal Australian College of Surgeons)]という肩書きを持ち、独立した外科医になります。


この一連のトレーニングシステムを含む、各専門分野のregulationを担っているのがcollegeです。

 

  

Short term training pathwayとは

正式には、'Short term training in a medical specialty pathway'です。

内容はこのままの意味です。つまり「専門分野で短期間トレーニングをしにくる人のためのpathway」です。

 

は、僕はこれで来ています。

 

そして、おそらく、日本からオーストラリアでの「臨床留学」を考えた場合に一番現実的なアプローチがこれだと思います。

 

このpathwayでの医師登録は、写真にも記載されている通り、

 

'Limited registration for postgraduate training or supervised practice'

 

という名目です。

 

このregistrationでの医療行為は、

 

1 認められた病院での

2  指導医の監督下での医療行為

 

に限られます。

 

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写真に載せた僕のregistrationは、AHPRAのhomepageで検索すれば誰でもチェックできます。この証書の2枚目には、僕の専門分野と、実際に医療行為を行うことが許される病院の名前が列記されています。ここに書かれた制限内での医療行為が許されるということです。

 

 

そして最大3,4年間という上限があります(3年か4年か、については色々ややこしいので後述します)。

 

このpathwayでregistrationを経て医療行為を行うために必要な条件は以下の主に3つです。主に、と書いたのは、他にも細かい条件があるからですが、それらは基本的にあまり気にしなくていいと思います(たとえば犯罪歴の有無、とかなので、、)。

 

1. オーストラリア以外の国で専門分野のトレーニングを終えていること。

2. オーストラリアでのポジションを確保していること

3. 英語の基準をクリアしていること

 

です。

 

 

1. 専門分野のトレーニングを終えている

簡単に言えば、日本で専門医を取ったかどうか、ということになります。

 

2. ポジションの確保

はい、結局これが肝です。これについては、別の回に書きます。結局、コネをなんとか作る。ってこと

 

3. 英語の基準

英語の基準については、いくつかのテストが認められていて、以下のいずれかをクリアする必要があります。

 

1. IELTS

  overallで7以上。かつ各カテゴリー全て7以上

  これを1回のテストでクリアするか、

  半年以内に受けた2回のテストの合わせ技でクリアする。

  2回の合わせ技の場合でも、いずれかのカテゴリーが6.5未満だとアウト

 

2. OET

      各カテゴリーで評価B以上。

  これを1回のテストでクリアするか、

  半年以内に受けた2回のテストの合わせ技でクリアする。

  2回の合わせ技の場合でも、いずれかのカテゴリーがC未満だとアウト

 

3. PTE academic

4. TOEFL iBT

5. NZREX  - New Zealandのテストらしい

6. PALB  - 英国のテストらしい

 

すんません、3以降は詳細省かせてもらいます。

 

各詳細は

AHPRAウェブサイト このページの 'English Language Skills Registration Standrd' という項目を参照してください。

 

ややこしいところを一応解説しておきます

前述した通り、このpathwayでのregistrationには期間の上限があります。

これ、AHPRAには最大4年、と書いてあります。

 

が、

 

実際には3年が上限と考えておいた方が無難です。

 

これややこしくて僕も最初はよくわからなかったのですが、このややこしさは、先ほど説明したように、複数の機関がこのregistrationの規制に関わっていることに起因します。

 

結局のところ、このPathwayで来るための第一の条件である「自国で専門分野のトレーニングを終えている」という部分に関して、そのトレーニングがちゃんとこのpathwayに値する内容なのかどうか、という評価をするのが「College」で、collegeが「この人、自国でちゃんとしたトレーニング受けたからokです」と言って初めて、AHPRAが「それじゃ、limited registration あげるね」ということになります。

 

で、collegeの方からもらえる「ok」が、更新2回まで、つまり3年間が上限なようなのです。

 

ま、あまり深く考えなくてもいいです。

 

 

まとめ

 

ということでまとめると、

 

1. Short term training pathwayで、limited registrationを得られる。

2. limited registrationは最大3年まで、オーストラリアで指定の病院で指定の専門分野

    に限って医療が可能

3. そのために、自国での専門医+英語技能試験パス+受け入れてくれるポジション が 

 必要

 

 

という感じです。

 

この辺ややこしいので、わからないことがあればメールで僕に聞いてもらってもいいです。

 

とりあえず今回はここまで。

 

次回は、「もっと長くオーストラリアで医師として働きたい」という人はどうすれば良いか、ということについて説明します。

 

では。